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65分




 
くるしくて 喉のとこが詰まりそうなのは確かだが
頬をつたうのは 度重なるあくびに起因する
これ見よがしな溜息だ
嗚咽がでそうだと思って むすんだ口を
いとも簡単に開けて でてくるのだ
 
自分を思う心臓は つぶれるかと警戒して臆病
あなたを考える頭の中 
脳の液が白濁して上手く走らない
 
今この65分の間 目の裏に涙が流れる
きのう聴いた歌 100年前の愛しいあなた
おこがましくも哀れに思って
きゅっとなる私は人から見えない
 
誰のため くるしいのかと訊かれれば 
私よりむしろ世界中の
ちりばめられる歴史とテクノロジーは
味方だと思い込むのだ
嗚咽をこらえ なんとか息を殺す口を
それはイメージだと一蹴して あくびがでるのだ
 
まわりの様子を見渡しても 分からない 首がおちていて
先頭だけが舵をとろうとして 穴に落ちた鈍感だ
 
夢現のさかいをうろつき いつのまにか
あなたも同じだといいけど
あなたは私を哀れまない
 
今この65分の間 目の裏に涙が流れる
きのう聴いた歌 100年前の愛しいあなた
おこがましくも哀れに思って
きゅっとなる私は人から見えない






















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宙にある
 
 



コンクリートの壁の向こうから、
紙ひこうきが飛んだと思うと
実はそれは小鳥だった。
それがなんという鳥か分からない。
きっと、
紙ひこうきが化けたのだ。
 

白い体が宙で回り、揺れ、
上昇する。
動いているのは体の意志。
 

全ては冷たい、
無機質な。
 

今、ほんの少しの間だけ、
熱をもって動いているものが
また、知らない所で知らないうちに、
 

冷めてしまう。
 

翼を2、3度
ぱたぱたとやって
青く乾いた空に鳥の血が
染み出ているのを見た。






























不眠
 
 



エレベーターのなかの貼り紙を
一枚残さず剥がす
それを逆さに丁寧に貼り直す
 
ちょっとした自棄が紡いだ予期せぬ後悔は
ほっとするような 煩いような 
ラブリーな愛憎模様となった
 
駐輪場からすべては始まる
この隙間からすべては消える
テープ切って 石蹴って 
なんにも悪くないぜって?
アスファルトに置いとく印を 
いつかきっとまた見つけたら そのときは
 
ゴミに出されたカラスは実は余所者だった訳で
食べかけの今じゃ見るも無残な溜まりに
 
ちょっとだけ悲しくなっちゃった
如何ともしがたいわ
しゃんとできない 頭痛い
ラブリーな泥沼恋愛感情はどこ行った
 
深夜3時に目が覚める
行こうかどうか迷っている
深夜3時に目が覚める
でも それは 癪だ
深夜3時に目が覚める
行こうかどうか迷っている
毎晩のことなんだ 知らないでしょ
 
駐輪場からすべては始まる
この隙間からすべては消える
テープ切って 石蹴って
なんにも悪くないぜって?
アスファルトに置いとく印を
いつかきっとまた見つけても そのときは




































講ギ室
 
 



ピンで留めている端にのぞく肌と
耳に引っかかって こぼれそうな髪
向こうの窓から射してる曇り空に
逃げていく僕の声
 
君の爪の白いとこと血のかよったとこの
境界線をなぞって
どんなふざけた優しさも 安い幸せも
後回しにしないで 今に間に合うように
曇り空に雨を待って眠る君 隣の僕の声
 
そんなシーンを何度見てきたかな
きっと夜には雨が降る
僕の声は降りてくることはなく
遠いどっかで何かになりかわる
 
灰色の背景も飛び去る鳥たちも
君のちゃんとした泣き顔も
隠している僕のそれも
全部重く包む魔法を待って君は眠るんだ
 
そんなシーンを何度見てきたかな
きっと夜には雨が降る
僕の声は降りてくることはなく
遠いどっかで何かになりかわる
































塩と女




「身体は、大丈夫なんですか」
尋ねる私に向かって少し微笑み、
「えぇ、」
と彼女は言った。
「塩があれば、平気。」
 
手にいっぱいの食塩をすくい、口に運ぶ。飲み込む。またすくって、口に含む。
 
「毎日10キロずつ届けてくれる人がいるのよ」
間に少しの言葉を挟んで、ずっと、塩をすくっては飲み込み。
 
彼女の話では、その塩の配達人は毎朝やってくるらしい。彼女を起こし、彼女の身体を洗い、着替えをさせ、それから彼女が生活するこの部屋の床に10キロの袋の中身を全て空けて、去ってしまうのだと。その人物が毎朝大量の塩を落としていく床は、そのためにもう見えない。白いだけの部屋、大きな窓からの光をうける砂の山のなかに、彼女は座りこんでいる。
 
「どんな人なんですか」
「声が、とてもきれいで
でも無口。
自治体からの報告をしてくれるときにだけ、その低くて濡れたみたいな声を聴けるんだけど」
「報告?」
「そう、でも内容はさっぱり。
あたしはその人の声しか聴いていないから」
 
彼女は塩を食べ続ける。
こちらから何か話しかけない限り、私がそこにいないように、食べ続ける。
 
噂は本当であったということ。
 
夕方、日が沈んだ頃、彼女の動きがふと止まり、塩の山を枕に横たわるかたちになった。眠っている。部屋のなかには音が無くなった。
 
ああそうか、こうして彼女は毎日、配達人の声で起こされるのを待っているのだ。待ってなどいないかもしれない、ただ、その人が来なければ彼女はいつまでも塩のなかで眠っていそうな、それくらいに冷たく、危ういものに見える。配達人は明日も来るだろう。
























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