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塩と女




「身体は、大丈夫なんですか」
尋ねる私に向かって少し微笑み、
「えぇ、」
と彼女は言った。
「塩があれば、平気。」
 
手にいっぱいの食塩をすくい、口に運ぶ。飲み込む。またすくって、口に含む。
 
「毎日10キロずつ届けてくれる人がいるのよ」
間に少しの言葉を挟んで、ずっと、塩をすくっては飲み込み。
 
彼女の話では、その塩の配達人は毎朝やってくるらしい。彼女を起こし、彼女の身体を洗い、着替えをさせ、それから彼女が生活するこの部屋の床に10キロの袋の中身を全て空けて、去ってしまうのだと。その人物が毎朝大量の塩を落としていく床は、そのためにもう見えない。白いだけの部屋、大きな窓からの光をうける砂の山のなかに、彼女は座りこんでいる。
 
「どんな人なんですか」
「声が、とてもきれいで
でも無口。
自治体からの報告をしてくれるときにだけ、その低くて濡れたみたいな声を聴けるんだけど」
「報告?」
「そう、でも内容はさっぱり。
あたしはその人の声しか聴いていないから」
 
彼女は塩を食べ続ける。
こちらから何か話しかけない限り、私がそこにいないように、食べ続ける。
 
噂は本当であったということ。
 
夕方、日が沈んだ頃、彼女の動きがふと止まり、塩の山を枕に横たわるかたちになった。眠っている。部屋のなかには音が無くなった。
 
ああそうか、こうして彼女は毎日、配達人の声で起こされるのを待っているのだ。待ってなどいないかもしれない、ただ、その人が来なければ彼女はいつまでも塩のなかで眠っていそうな、それくらいに冷たく、危ういものに見える。配達人は明日も来るだろう。
























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