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死神




 
あなたは死神です。
それはあなたがそう言ったのでも、
わたしが誰かに聞いたのでもありません。
でもわたしはあなたが死神だ、って
知っているのです。
地上80階、エル字型に曲がった
コンクリートの手すりで、
エル字の長い方の線にわたし、
短い方にあなたが座っています。
わたしの右膝とあなたの左膝が
当たるくらい近くに。
わたしはあなたの横顔と、
何もかも灰色の背景とを、
足をぶらつかせてうつらうつらしながら
自分のまつげ越しに眺めました。
それから、
あなたの全体に黒い服装が細い体にぴったりで
この世にこんな良い黒があったのかしら、
ああ、でもあなたは死神だから、
と静かに感動していました。
いつの間にか、あなたの長い腕に
わたしは肩を抱き寄せられて
ゆっくりした心地で、
あなたの大きくて少し骨張った手が
わたしの左耳に触れます。
軟骨がつくる凹凸を指でなぞられて、
わたしは本当に、
いつまでもそうしていたかった。
ずっと、あなたと2人で、静かで。
わたしが最後に憶えているのは、感覚なのです。
あなたの手で、抜けていく感覚。
抜けていく軟骨。軟骨の中の、わたしの記憶。
記憶の中の、死。
軟骨が抜けていく、
もうわたしの左耳の中には
留まっていてくれないのだ、
感じていることしか
わたしにはできませんでした。





















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