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死神




 
あなたは死神です。
それはあなたがそう言ったのでも、
わたしが誰かに聞いたのでもありません。
でもわたしはあなたが死神だ、って
知っているのです。
地上80階、エル字型に曲がった
コンクリートの手すりで、
エル字の長い方の線にわたし、
短い方にあなたが座っています。
わたしの右膝とあなたの左膝が
当たるくらい近くに。
わたしはあなたの横顔と、
何もかも灰色の背景とを、
足をぶらつかせてうつらうつらしながら
自分のまつげ越しに眺めました。
それから、
あなたの全体に黒い服装が細い体にぴったりで
この世にこんな良い黒があったのかしら、
ああ、でもあなたは死神だから、
と静かに感動していました。
いつの間にか、あなたの長い腕に
わたしは肩を抱き寄せられて
ゆっくりした心地で、
あなたの大きくて少し骨張った手が
わたしの左耳に触れます。
軟骨がつくる凹凸を指でなぞられて、
わたしは本当に、
いつまでもそうしていたかった。
ずっと、あなたと2人で、静かで。
わたしが最後に憶えているのは、感覚なのです。
あなたの手で、抜けていく感覚。
抜けていく軟骨。軟骨の中の、わたしの記憶。
記憶の中の、死。
軟骨が抜けていく、
もうわたしの左耳の中には
留まっていてくれないのだ、
感じていることしか
わたしにはできませんでした。





















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耳子の話





私は一度、「忘却の彼方」についてじっくり、頭をつかって、考えたことがあります。
 
「君は頭で考えるのか」船長に言われました。私も確証はありません。でも、その「頭をつかって考える」と、頭の辺り、額の裏辺りがぐちゃぐちゃ熱いような感じになってくるから、きっとそう。
船長は、自分は頭の中がぐちゃぐちゃすることはないと言っていました。きっと船長の大きな頭の中には、しわくちゃの脳みそと一緒にファンが入っていて、少しでも熱くなるとそれが回るんだと、そんな図が浮かびます。しかし私の頭蓋骨はクーラー内蔵ではないので、やっぱり額の裏をぐるぐる考えます。
 
私の脳みその真ん中に、私の案中のこと達が入っている部屋があって、その中に棲んでいるうちの一個がそこから追いやられて、というより、忘却の彼方という言葉は何となくスナフキンのような響きがするから、きまぐれに出ていって、降り立つボーキャク平原の地平線まで行って、スナフキンのハーモニカの音が夕日に聞こえなくなった所が「忘却の彼方」。さすらいにいなくなったその時は初夏の頃だからいいけれど、ふらりと帰ってくるときにはもう間に合わないのですから、困ってしまいます。しかもそのさすらい役は誰にだって務まるのです。私や三上君、船長だって、忘却の彼方へはいつでも行けるのです。
 
 
 
そんな話をし終わると三上君は「うん、うん、そうか、耳子ちゃんはいいバニーちゃんだね」と目を細くして笑いました。「また来るよ」トマトジュースの代金ぴったりを置いて、お店を出てしまいます。
 
 
何か話し忘れたことがあるような気がしました。
 
 
 





















ネーム・コール
 
 



思ったの、
コッチに帰ってきてから 
聞かない名前が多いこと。
 
アンリ・マチスなど しばらくだわ。
 
あんり、あんり。
 
私の愛しいあんりは まだムコウにいるのだ
まだムコウにいて、イロと戯れているのだ。
 
嗚呼、あんり。
 
あなたがもうすぐに
アッチへ行ってしまうって本当ですか。
どうしてコッチには来られないのですか。
 
ずっと名前も聞かずにいたら、私、
あなたのこと
忘れてしまいそうだわ、
 
時々は夢に現れて。
 
アンリ。あんり。
 
知らない名前を 思い出してみる。
























シャワー

 

 
きいて あたしは 神様の子よ
空と海と大地を統べる あの おじいさんの
一番可愛い娘
 
あたしは深海に潜り
光の届かない底で 足をそろえて立つの
ここでは枝毛も気にならず
 
ひざにできたアザは
いつか天井に ぶつけたときの
いつまでも消えないターコイズ色
 
きいて あたしは 神様の子よ
あたしは あの おじいさんを知らない
知らない
知らない
知らないわ

































東一といいます。
シカシシカ は東一がとくに目的なく書いた
文章、おもに散文、をつっこんでく倉庫です。










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